本文へスキップ

 


『クイズマガジン21』は

クイズ作家・田中健一のオフィシャルサイトです。

Ultra Quiz アメリカ横断ウルトラクイズ体験記

   
【24】大西さん大ヒンシュク/フロリダキーズ・マラソンクイズ

 9月16日。
 残るはあと5人。今日は何をやるのか想像がつかないが、体力勝負の可能性はここが最後ということで、3本目のユンケルを飲む。いちばん高いものだ。

 目隠しを取った僕らがバスを降りると、そこは何の変哲もないハイウェイの途中で、スーツケースを持って砂浜へ。焼けつくような陽射しのいい天気だ。
 福澤さんが登場。オールド・セブンマイル・ブリッジが紹介される。
「さて、この地で行うクイズはいったい何か? あっそうそうそう、いい忘れました、肝心なことを。実は皆さんがいるこの島の名前、マラソン島って言うんですね~」
「え~っ」
「皆さん、右手前方をご覧ください」
 おなじみマラソントレーラーの登場だ。
 やられた~と思うのと同時に、大西さんに非難が集中する。

 大西さんはいつも、鎌田に借りた『地球の歩き方』や空港にあるパンフレットを見て、誰よりも詳しく、しつこく、ねちっこく、重箱の隅をつつくような御当地問題を作ってノートに書き込んでいた。
 今回も「ここマイアミで……」という問題を何問も作ったり(ここはマイアミちゃう!)、沈没した船の名前(ヌエストラ・セニョーラ・デ・アトーチャ号)や、それを引き上げた人の名前(メルフィッシャーさん)など、どうでもいいことばかりたくさん覚えていたのだ(と言いつつ、僕もしっかり覚えていたりするのだが)。
 そんな人が、どうして、ここに「マラソン島」があることに気付かないのだろう。『地球の歩き方』にも載っているのに。
 もちろん、マラソンクイズという形式を忘れていたわけではないし、アトランタではオリンピックと関連してかなり警戒していたくらいだ。でも、ここではルート1の代替路はないはずだから、交通を遮断する必要のあるマラソンクイズはできないと思っていた。
 ところが、こともあろうにあの有名なセブンマイル・ブリッジの隣に、オールド・セブンマイル・ブリッジなどというものがあるとは。頼んまっせ、大西さん!

 ところでこの時、他の挑戦者の表情に注目していると、松井と荒井が特に嫌そうな顔をしたのが目についた。僕はというと、この形式は別に嫌ではなかった。体力にそれほど自信があるわけではないが、やることは普通の早押しだから、バラマキやママさん当てよりはずっといい。

 マラソントレーラーが動き出し、クイズ開始。3ポイント先取で勝ち抜けだ。
 「ウルトラーファイト」「オー」「ファイト」「オー」「ファイト」「オー!」
 体育会系のノリで気合を入れる。
 1問目はいきなり「マラソン」が答えだったのに、みんな気付くのが遅く、僕が取って先制パンチ。
 それにしても解説が長いし、余計なコメントも多い。
「いや~それにしてもいい景色ですね~」
 そんなことはええから、はよ問題出せ!
 トレーラーの上で胡座をかいている福澤さんを睨みながら、黙々と走る。

 3連続1抜けを狙う鎌田は、今日はどうも調子が悪い。
 簡単にリーチをかけたが、得意の地理問題を間違え、さらに、
「今年4月1日に熊本県にオープンした、日本一長い/……」
「ハウステンボス」
「ちゃうちゃう!」
 答えればかっこいい問題だけに、大西さんと僕から同時に突っ込みが入る(日本一長い駅名は?で正解は「南阿蘇水の生まれる里白水高原」)。

 鎌田が休んでいるすきに「コロンブス」を取り、追っかけリーチ。
 そして、
「生きている間には『赤いブドウ畑』という1枚/の絵しか……」
「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ!!」
 やった。初の1抜けだ。
 おそらく最後の体力クイズは、またしても疲れる前に終わってしまった。
 しかもこの時点で、大西さんと荒井はまだ0ポイント。
 アトランタでそれまでの「守り」から「攻め」に転じた僕は、ようやく本来の調子を取り戻し、波に乗りつつあるようだった。

 後続のオープンカーに乗り、戦況を見守る。
 大西さんと荒井が答え始め、勝負は混戦状態に入ったが、大西さんが「文楽」「生成」と連取し、大逆転の2抜け。続いて鎌田も抜け、体力に自信のない2人の対決になった。

 2人ともかなりバテているようで、マラソントレーラーのスピードも目に見えて落ちる。ほとんど歩くような速さだ。
 そしてこの問題。
「ロシアでは『婦人の夏』、ドイツでは『老婦人の夏』、アメリカでは『インディアンの夏』と呼ばれている晴れた日のことを何という?」
「インディアン・サマー」
「そのまんまやんけ!」
 オープンカーから一斉に突っ込みが入る。荒井はもう完全に頭がとんでいるようだ。

「イイダコ」
 松井のその一声とともに荒井の負けが決まった。
「どうだい松井君?」
「タバコ減らします」
「この中で唯一の喫煙者・松井、越後親父。20にしてヘビースモーカー」
「ちゃうちゃう!」
 またしてもみんなの突っ込みが入る。テレビでは言えないが、荒井も立派なヘビースモーカーなのだ。

 18歳ながら実力派の荒井だったが、バラマキ、マラソンと体力クイズで2度敗れるとは……。
 「体力がない」というのは冗談だと思っていたのに、本当だったのか。
 おまえもタバコを減らせよ、荒井!

 今度はオープンカーでオールド・セブンマイル・ブリッジを引き返し、マイアミまでは楽しいバスの旅だった。右は大西洋、左はメキシコ湾(大西さんの地図ではカリブ海)。真っ青な海と空に抱かれて、50近くの島々を橋で結んだオーバーシーズ・ハイウェイがどこまでも続く。「世界一美しいハイウェイ」という形容も決してオーバーとは思われない。
 ただ、この辺りは大型ハリケーン「アンドリュー」が猛威をふるった後で、その傷跡がそこかしこに残っている。中でも、倒壊した家の壁に書かれた「NO JESUS NO PEACE」の文字が痛々しく、印象的だった。

 シェラトン・リバーハウスに再度チェックイン。遅い昼食をとってから、フロントで道を聞いて4人でコインランドリーへ向かった。レイクパウエル以来の洗濯タイムだ。
 5分ほどだと聞いたのだが、なかなか着かない。徒歩ではなく車でということに気付いた時にはもう遅く、犬に吠えられながら住宅街の中をかなり歩いた。
 コインランドリーには1クォーター(25セント)でできるゲームがあり、マリオブラザーズをして遊んだ。何年ぶりだろう。


【25】つかの間の休息/マイアミ

 9月17日。
 今日は完全なオフということだ。
 スタッフには何度も騙されてきたが、今日は信用していいだろう。
 どこへ行こうか4人で相談して、とりあえず水族館へ向かったが、アンドリューの影響で閉鎖されており、ビーチで遊ぶことにする。

 海で遊ぶのはグアム、ハワイに次いで3度目だが、ここではグアムやハワイにないものをたくさん見ることができた。そう、アレだ。
「前方1時の方向に、チチアテナシ発見!」
 大西さんのこの言葉で、説明は十分だろう。
 フリスビーをして、泳いで、焼いて、高校の同級生の友達に出会ったりして楽しい一日を過ごすことができた。


【26】決戦の日が迫る/マイアミ→フィラデルフィア

 9月18日。
 13時発のUSエアーでフィラデルフィアへ。
 この日についてはあまり記憶がない。
 搭乗券に書かれていた「挑戦者」という意味の「挑」という字を見て、大西さんが「このモモって何や?」と言ったこと(大西さんの弱点は数え切れないほどあるが、漢字もその一つであることは疑いがない)。
 飛行機から大西洋がよく見えたこと。
 夕食の中華料理がとても美味しかったこと。

 今日ひとつ気になったのは、鎌田がとてもナーバスになっていたことだ。
「早くクイズをやりたい」
 しきりにそんなことを口にしたり、『地球の歩き方』を大西さんに貸すことを頑なに拒み続ける鎌田には、今までの余裕は感じられなかった。