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『クイズマガジン21』は

クイズ作家・田中健一のオフィシャルサイトです。

Ultra Quiz アメリカ横断ウルトラクイズ体験記

   
【9】東大VS京大/ハワイ・対決ドボンクイズ

 9月3日。
 今日は絶対クイズをやるだろうとわかっているので、少しは気が楽だ。挑戦者を2日も遊ばせる訳がないからだ。
 体力クイズに備え、ユンケルを飲む。

 水着を着てくるように言われているので、海で何かをするのは明らかだが、バスはどんどん山の中へ入っていく。
「海じゃなくて、池かあ?」
 そんな声もあがったが、目的地はひと山越えたカネオヘ湾だった。
 バスから船に乗り換え、ぐんぐん沖へ。
「海の上で何をやるんかなあ?」
 不安が高まる。

 やがて前方に一隻の双胴船。海面へ突き出た2本のボードの上にADが2人……。
 すっかり忘れていた。「ドボンクイズ」があったことを。
 でも、個人の力ではどうしようもないチーム対抗よりはいいし、泳ぎも関係ない。

 救命胴衣を着用して双胴船に乗り移り、一度海に入って体を水に慣らす。
 ドクターからクラゲに関する注意。カツオノエボシがたくさんいるようで、スタッフがボートから網ですくっている。刺される回数が重なるにつれて症状がひどくなるそうで、刺された経験の有無なども聞かれる。
 そんなクラゲよりはるかに気になるのが対戦相手だが、それは順番が来るまで教えてもらえない。組み合わせは昨日測った血圧によって「小心者」対「図太い者」の対決ということになっているが、そんなのは建前に過ぎない。実際は「残したい人」対「どうでもいい人」で、残したい人同士は絶対に当たらないようになっている。そして、残したい人に有利な問題が出るはずだ。

 今にも降り出しそうな曇天の中、クイズ開始。
 2ポイント先取、お手付き・誤答は1回休み。
 待機場所からは音はよく聞こえるが、クイズをやっている2人は見えない。

 最初の対戦は「新撰組」の下村淳一VS肉嫌い仲間の黒川さんだったが、これは後々まで語り継がれる大スルー合戦になった。テレビには4問しか映っていないが、実際には20問近く費やしているはずだ。
「簡単な問題で抜けても嬉しくないから……」
 日本に帰ってからもいろいろ言い訳は聞いたが、僕らは待ちくたびれて昼寝でもしようかと思ったほどだ。
 
 3組目の溝渕VS高吉さんも笑わせてくれた。
 女性が2人しかいないということで、スタッフが高吉さんを残したがっているのはわかるのだが、問題傾向があまりにも高吉さん寄りなのだ。料理問題やファッション問題が立て続けに出て、時々出る普通の問題は、
「モーツァルトの作品につけられるケッヘル番号は何番まで?」
 などという、どちらも答えそうにない問題なのだ。
 あまりの露骨さに僕らは笑ったが、スタッフは重大なミスを犯していることに気付いていなかった。主婦ながら家であまり料理をしない高吉さんにとって、料理問題は全然ありがたくなかったのだ。
 高吉さんがレーサーの妻ということで出したレース問題は溝渕が取ってしまうし、ついに用意した高吉さん問題が尽きたのだろう、簡単な普通の問題が出て、溝渕が勝ってしまった。

 7組目の対戦。いよいよ僕の番だ。
 相手は東浦君。京大法学部の4年生で、クイズ研ではないが油断はできない。
 足を滑らせそうになりながら、おそるおそるボードに座る。下を見るとけっこう高さがあり、これは絶対負けられないと思う。
 
「田中(健)」という名札を見ると俳優みたいですが、顔を見て安心しました」
「ははは」
「田中君は小心者ということですが……」
「その通りだと思います」
「高い所はどうですか?」
「苦手です」
「泳ぎの方はどうですか?」
「得意とは言えません」
「三重苦を背負った田中君です」

 そんなやりとりの後、1問目。
「春一番はどの方角から吹いてくる?」
 もちろん「どの」で押して「南」……じゃなくて、スルーしてしまった。
 もう何とでも言ってくれ。頭が空っぽだったのだ。東浦君も押さなかったのはラッキーだったとしか言いようがない。
 その後「車座」「リンゴ・スター」と答えて2-0で勝ったが、決して後味のいい勝ちではなかったし、またバカにされた(特に大西さんに)。

 次の対戦は鎌田VS千代田。またも東大VS東洋大だ。
 この2人はグアムでも最前列同士で対戦し、その時は千代田が押し勝って1抜けを果たしたが、今回は2-0で鎌田が借りを返した。2問ともスピード勝負の好カードだった。

 東京ドームの8問目で間違え、ジャンケンでも負けたのになぜかまだいる大西さんは、ここでもまた絶体絶命のピンチに追い込まれた。
 相手は北陸先端科学技術大学院大学(長い!)の居倉さんで、1-1から大西さんが間違えて1回休み。そしてこの問題。
「高校教師をやめて今年大相撲の世界に入門した、元アマチュア横綱といえば誰?」
 大西さんの命運もついに尽き果てた。誰もがそう思ったはずだ。
 ところが、知らなかったのだ。居倉さんは「成松」を。
 結局大西さんは次の「ストリートファイター2」を答えて逆転勝ち。本当にしぶといおっさんだ。

 雲行きはずっと怪しく、雨が降り出したりして3回も中断されたが、なんとか終了。
 組み合わせと結果は以下の通りだった。(勝ち―負け)
 下村(第一経済大)-黒川(会社員)
 荒井(早稲田大) -小林(東洋大)
 溝渕(会社員)  -高吉(主婦)
 松井(新潟大)  -森川(立命館大)
 野上(会社員)  -太田(信州大)
 小澤(主婦)   -青野(大阪府立大)
 田中(東京大)  -東浦(京都大)
 鎌田(東京大)  -千代田(東洋大)
 関谷(新潟大)  -高橋(会社員)
 中島(立正大)  -原(立命館大)
 大西(呉服屋)  -居倉(大学院)
 木ノ下(会社員) -橋本(?)

 12の対決のうち、10は勝つべき者が勝った(スタッフの希望通り)と言える。下村、荒井、松井、僕、鎌田、関谷、大西さんはおそらく実力どおりだし、野上さん、小澤さん、木ノ下さんは明らかに「残したい人」だった。野上さんが取った2問は「大鵬」と「エルビス・プレスリー」だし、小澤さんは「ビフィズス菌」と「近江俊郎」なのだ。
 太田や青野の負けは目立っていなかったための悲劇だろう。

 番狂わせは高吉さんと、あのRUQSの原が負けたことだった。原の相手の中島は立正大のクイズ研だったが、そのことは成田のホテルで聞いた僕しか知らなかったはずだ。
「僕がクイズ研だということは他のみんなに言わないでくださいよ。他のクイズ研のみんなは強いのに、僕だけ弱いから恥ずかしいですよ」
 そう言われた僕は、ずっと黙っていたのだ。
 原は自分の対戦相手が中島だとわかると、すぐに僕に聞いてきた。
「中島ってクイズ研に入ってるん?」
「いや、知らん」
 僕は嘘をついた。この時、僕の心はかなり痛んだ。それは本当だ。原も大事な仲間なのだから。でも2人の実力の差は歴然としているし、少しはハンデがあってもいいだろうと思ったのだ。
 結局、原は1-2で中島に敗れてしまったが、相手がクイズ研じゃないから油断したというなら、その方が問題だろう。それより中島の勇気ある戦いを褒めてあげたい。

 軽い食事の後、アラモアナ・ショッピングセンターへ買い物に。
 大西さん、荒井と一緒におもちゃ屋で早押し機を探したが、結局見つからず、電卓を買った。第13回のメンバーはオーストラリアで見つけたそうだが、いったいどこに売っていたのだろう。ついでに日本語版のガイドブックも探したが、こっちもダメだった。ここになければ、この先どこへ行っても入手できないだろう。『地球の歩き方』くらいは持ってくればよかったと後悔する。
 夜は居酒屋で改めて自己紹介。それから全員でストリップに行った。
 そこでは……。
 さすがに疲れたし、明日は5時起きということで、部屋に戻ってすぐに眠りについた。


【10】空から枕が降ってきた/ハワイ・真夜中のウルトラツアー○×クイズ

 ドンドンドン、ドンドンドン。激しくドアを叩く音がする。電話も鳴っている。
 時計を見るとまだ2時だ。
 やられた!
 よりによってこんな日に……。
 昨日は外出禁止と言われて警戒していたのに、今日は何も言われなかったから、すっかり油断していたのだ。

 ロビーに集合させられ、真夜中のウルトラツアーへ。
 バスの中では真夜中のカラオケ大会が始まる。ワラジン木ノ下さんの『真夜中すぎのクイズ』(安全地帯『真夜中すぎの恋』の替え歌)やマダム小澤さんの『瀬戸の花嫁』で盛り上がり、すっかり目が覚めた。

  午前3時、最初の目的地、ヌアヌ・パリに到着。
 街灯一つない真っ暗な道を、風に吹かれ、雨に打たれながら歩く。配られた安物のカッパなんか全然役に立たない。展望台からの夜景はきれいだが、こんな場所で何をやらされるのか見当がつかず、不安が増す。
 その時だった。
「みなさん、上空をご覧ください。さすがに何も見えませんね。あっ、あそこに見えるのは? 流れ星だ!」
 見覚えのある○×枕が降ってきた。

 ルールは1問正解勝ち抜け。最後まで間違え続けた一人が失格。
 この形式は第13回でやったことがある。答えを教えてもらえないうえ、誰が落ちたかもすぐにはわからない。落ちる確率は12分の1とはいえ、精神的にとても疲れるクイズだ。

 1問目。
「ハワイを訪れる観光客は日本人が最も多い」
 知らないが、いくら日本人が多いといっても、アメリカ人の数には負けるだろうということで×を出す。
 さあ次の問題、と思ったら、
「ここヌアヌ・パリでの問題はこれ1問。次の観光地に向かいましょう」
 またバスに乗り込む。

 カメハメハ大王の像の前で2問目。もう4時40分だ。
「ハワイを代表する曲『アロハ・オエ』の作者は、このカメハメハ大王である」
 これは昨日大西さんや鎌田との会話にも出てきたことで、作ったのはリリウオカラニだから×。これで確実に抜けたはずで、気が楽になる。

 ワイキキビーチで3問目。
「ここワイキキビーチの砂は、カリフォルニア州ロングビーチから運ばれたものである」
 どこかから運ばれたというのは何かで読んだような、と思い○を出す。
 まだ決まらず、続けて4問目。
「ワイキキとは、現地の言葉で『静かな浜辺』という意味である」
 知らないが嘘っぽいということで×。
 さらに5問目。
「アメリカ人の平均寿命。本土に比べるとハワイの方が長生きである」
 もうどっちでもいい。素直に考えて○。

 ホテルに戻ってから、大西さんが全員の答えを聞いて表を作った。4問目までの答えがまったく同じで5問目が違うのは荒井と関谷の実力者2人。5問目の正解がわからないので、どっちが敗者かまだわからない。本当はこんな表は作るべきではなかったのだが。
 3問目のワイキキビーチの砂の問題は空港でもらったパンフレットに載っていたことがわかる。ロングビーチではなくオアフ島の別の海岸やハワイ諸島の他の島から運ばれたということで×。まだまだ勉強不足だった。

【11】涙の敗者発表/ハワイ→サンフランシスコ

 9月4日。
 チェックアウトを終え、ホテルのレストランでブランチをとる時、なぜかテレビカメラがいる。
「食べ終わったら皿に東京直行って書いてあるんちゃうか?」
「このアイスクリームが怪しいなあ」
 僕らがそんな話をしている間も、荒井と関谷は当然元気がない。特に関谷は、フロントでチェックアウトの手続ができないと言われたらしく、かなり落ち込んでいる。
「本当に関谷が敗者やったら、そんなバレバレのことするはずないやろ」
 と言って励ますが、もちろん荒井にも落ちてほしくない。
 
 結局ホテルでは何もなく、みんなバスに乗り込んだ。
 これから観光に行くがどこか希望はないかと聞かれ、マダムは奇襲のコースをもう一度まわりたいと言い、ワラジンは海へ行きたいと言う。
 バスは希望通りに市内をあちこち走り、最後にワラジンの希望した海ということで、カピオラニビーチへ。バスを降りると、道端の公衆電話で電話をしている人がいる。
「あれ福澤さんじゃないか?」
 誰かが言う。
 本当にその通りだった。
 騙された。ここに来ることは最初から決まっていたのだ。

 全員に双眼鏡が配られる。
「諸君、右手奥、あのホテルの上にはためく3つの旗を見るがいい!」
「いちばん手前がホテルのマーク、真ん中がハワイの州旗、そしていちばん奥にあるものは何だ~?」
「何やあれ? 星条旗?」
「その通り! いちばん奥にあるのは星条旗です。星条旗、見えましたか? みなさん見えましたね。双眼鏡に異常はないようであります」
 何やそれ~。ふざけやがって!
 次に左手の監視台を見ろと言われ、また肩すかし。
 3度目。
「おっと、あの沖にカヌーを操る二人組がおりますね~」
 そこにはドボンクイズでお世話になったマッチョマンとレイギャルの姿が。
 そして「関谷」の名前が……。

 チェックアウトできずに泣きそうになっていた関谷。アイスクリームを食べる手が震えていたのを思い出す。
 新潟大学クイズ研究会副会長。実力は十分あり、本土まで行けばしばらくは楽な旅ができるはずだった。それがこんな所で……。
 そんな関谷がかわいそうで涙が出てきた。
「また会おう!」
「頑張ってください」
 僕は関谷とがっちり握手を交わした。

 バスはホノルル空港へ。
 外でワラジンとフリスビーをして遊んでいると、プロデューサーの廣田さんから『ダカーポ』がどさっと配られる。これを読んで勉強しろと言うのだ。
 待合室では特にすることもないので、みんなで『ダカーポ』を回し読みする。特に、そろそろ余裕がなくなってきたマダムやワラジン、溝渕は熱心だ。
 21時30分発のユナイテッドでホノルルを後に。
 次はいよいよ本土上陸だ。